『オペラ座の怪人』の秘密の鍵をちょっとだけ開けてみましょう!
『オペラ座の怪人』の舞台は競売のシーンから始まります。この競売の目玉となる品がシャンデリアです。
競売人によると、あの”奇怪な事件”に関わった貴重な品、とのこと・・・。
舞台上のシャンデリアは荘厳なオーヴァーチュアとともに強烈な光を発して客席上方へと昇っていきます。シャンデリアが舞台上から客席上方へと昇っていく際、「J」の字を描くかのように上がっていきます。高さ約2メートル、横幅約3.5メートル、奥行き約2メートル、重さは約400キログラムにもなる巨大なシャンデリアが宙に浮かぶ様は観客の目を釘付けにします!
シャンデリアの周囲を飾る竪琴や、3万4000個にもおよぶクリスタルビーズは、全てスタッフがひとつひとつ取り付けに至るまで手作業で作り上げています。
このクリスタルビーズは、オリジナル美術スタッフのマリア・ビョルンソンの名前にちなんで、”マリア・ビョルンソン・カット"という独自のカット方法を用いており、わざわざ『オペラ座の怪人』のためにデザインされました。
ご観劇の際は、このシャンデリアに改めて注目してみてください!
怪人がクリスティーヌを地下湖の怪人の部屋へボートで連れて行く象徴的なシーン。
“The Phantom of the Opera”の歌が印象的でもあります。
このボート、中はクッションが敷き詰められています。
クッションのデザインも、それから怪人が地下室でオルガンを弾いている時の衣裳も、 当時流行った中国仕様。
ここから流行にも敏感な怪人の美的センスが伺えるようです。
ボート内は客席からははっきり見えませんが、細部まで当時の様式にのっとったデザインにぜひご注目を!
「お次は665番。手回しオルガンの形に仕立てた張子のオルゴールです。
ペルシャ服を着てシンバルを叩いている猿の細工付き。 このオペラ座の地下室で見つかったという品物、まだちゃんと動きます。」
ラウルが30フランで落札したあのオルゴール。地下湖の怪人の部屋にぽつん、と置かれていました。
その光景はまさに怪人自身の孤独さを表現しているかのようです。
この猿のオルゴール、こだわりポイントは、猿の髪の毛。
身だしなみでスタッフが3ヵ所に髪の毛をよくねじって整えてあげてからいざ本番へ!
作曲家アンドリュー・ロイド=ウェバーのあふれる才能は、物語に登場する3つのオペラの劇中劇にも注がれています。
1幕序盤、大掛かりな象のセットの前でプリマドンナが歌う「ハンニバル」はヴェルディの「アイーダ」を、1幕終盤、18世紀を舞台にコミカルに演じられる「イル・ムート」は、モーツァルトの「フィガロの結婚」、また2幕終盤、怪人自らが作曲したという設定の「ドン・ファンの勝利」も、同じくモーツァルトの「ドン・ジョヴァンニ」を連想させます。
これらは、単に名作オペラの場面を模作したのではなく、ロイド=ウェバーが、正統なオペラの要素を意識し、音楽に劇的なロマンを蘇らせ、19世紀オペラを見事に再現しているのです。
『オペラ座の怪人』の美術デザイナーであるマリア・ビョルンソン。
衣裳だけでなく装置や小道具に至るまですべてを監修した彼女が、最も大切にしたコンセプト――それは「19世紀をそのまま再現する」ということでした。
デザインはもちろん、生地や装飾の素材、小物まで、たとえ観客席から見えない部分であろうとも、マリアの完璧を目指す情熱から逃れることはできません。少しでも違和感があれば、その瞬間、観客は現実に引き戻されてしまうことを知っていたからです。緻密な時代考証の末、舞台上に見事に復活した“ベル・エポック(素晴らしき時代)”。
『オペラ座の怪人』の成功は、このマリアの徹底したプロフェッショナリズムを抜きにしてはあり得なかったでしょう。
それゆえ、劇団四季ではマリアのコンセプトを壊すことのないよう、すべての衣裳をイギリスに発注しました。日本の着物文化に昔ながらの手縫いの手法があるように、西洋にも伝統的な洋服の仕立て方があるからです。
その結果、舞台を彩る豪華絢爛なコスチュームの数々は、舞台衣裳というよりも美術作品に近い芸術性を獲得することになりました。
例えば、劇中オペラである「イム・ルート」で着用されている衣裳は、オペラの時代背景に合わせた装飾・色調が厳密に再現されています。
男性は通称“時代フロック”と呼ばれる、ウエストからヒップにかけて大きな膨らみをもたせたジャケットと七分丈のズボン。女性はペチコートを入れてヒップにボリュームを出したバッスル調のスタイルです。このスタイルは長く人気を博し、20世紀初頭まで流行したといいます。
そして、衣裳とともに注目していただきたいのが、オペラのコミカルな雰囲気を象徴する「かつら」。
他の場面で使用されているものとは異なり、当時の芝居で使用された“化粧がつら”が特別に用意されています。
また、時代考証は縫製にも及んでおり、舞台衣裳にはファスナーが一切使用されていません。すべて細かいボタンやホックで仕立てられており、それゆえ出演者の着替えはさながら戦場です。
しかも、早替え(素早く着替える舞台用語)が多く、一人では間に合わないので、俳優同士が互いに着替えを手伝っています。
出演者31名の衣裳替えの平均回数は実に7回。中でもクリスティーヌは11回もの華麗な変身を披露!
「19世紀の再現」というコンセプトに加え、この圧倒的なビジュアルの豊富さが、他の追随を許さない唯一無二の世界を生み出しているのです。
「衣裳というのは単に舞台の上で人間が着るものではありません。その人物の感情、性格、生き方をはっきりと、あるいはさりげなく表していなくては。つまり、ドラマと密接に繋がっていなくては意味がないのです」
"舞台衣裳"そのものについて問われ、こう語ったマリア・ビョルンソン。
彼女の哲学は当然『オペラ座の怪人』でも貫かれ、その一端を「マスカレード」で垣間見ることができます。
パステルカラーの愛らしいドレスを着た歌姫・クリスティーヌ。その姿からは、ラウルとの婚約で幸福感いっぱいの心の内が自然と伝わってくることでしょう。
19世紀をリアルに感じ、その物語に違和感なく没頭できるのは、マリア・ビョルンソンの哲学と徹底した仕事ぶりがあってこそ。
次回の観劇では、彼女が衣裳に込めた情熱に改めて注目すると、また新たな感動を味わうことができるかもしれません。
いくつもの美しい旋律で織りなされるミュージカル『オペラ座の怪人』。
なかでも見どころ満載の豪華なシーンは、2幕冒頭の「マスカレード」!
よく見ると階段には俳優だけでなく、人形も置かれているのに気が付いた方もいらっしゃったのではないでしょうか。
人々が仮面姿でパーティーに集まる華やかな仮面舞踏会!
実はこの「マスカレード」は、その後のストーリーの展開を暗示させるような重要なポイントが散りばめられています。
クリスティーヌとラウルの婚約のことをまだ秘密に、ということは明らかです。
猿の仮装をしたダンサーとそれを取り巻くダンサーたちは見世物のグループでしょうか。
猿も仮装の衣裳もどことなく怪人のオルゴールを思い出させます。
怪人がかつて見世物の一座にいたことを連想することもできます。
普段は笑顔を見せないマダム・ジリーの笑顔が見られるのもポイントではないでしょうか。マダムは怪人のことを昔から知りながらも素知らぬふりをしている姿も見ることができます。
このように今後のストーリーの展開やストーリーのバックグラウンドを垣間見ることのできる「マスカレード」では、観るたびに新しい発見があることでしょう。
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