映画「ライオン・キング:ムファサ」公開記念対談

取材・文=浮田久子

12月20日に公開された話題の超実写映画「ライオン・キング:ムファサ」。
奇しくも同日に、劇団四季のディズニーミュージカル『ライオンキング』が日本初演から26周年を迎えました。
それを記念して、映画のプレミアム吹替版でムファサの声を演じた歌舞伎俳優の尾上右近さんと、
長年舞台でスカー役を務めてきた道口瑞之との対談が実現。
"ライオン・キング愛"を熱く語ってくれました。

※記事は「四季の会」会報誌「ラ・アルプ」2025年1月号に掲載されたものです

「ライオン・キング」の思い出をお聞かせください

尾上右近さん

右近 僕は今32歳ですが、オリジナルのアニメーション版を初めて観たのは5、6歳だったかな。子どものころから慣れ親しんだ作品で、一緒に歩んできたようなところがあります。歌舞伎は伝統の世界ですが、伝統の持つ力や受け継がれていくもののすばらしさを「ライオン・キング」からも強く感じ、だんだんと自分に重ね合わせて観るようになりました。でも、まさか自分が演じる側になるとは。誰もが知っている作品に携わることができて、役者としてとても誇りに思います。

道口 僕は、劇団の仲間とビデオ鑑賞会をした思い出がありますね。ミュージカル開幕に向けてオーディションが行われることになったとき、ちょうど別の作品で全国を旅していて。まだ配信もない時代ですから、先輩の部屋に集まり、みんなで食い入るようにビデオを観ました。僕がスカーを演じるようになったのは、開幕から10年後のこと。もちろん歌舞伎とは歴史が違いますが、先人が築き上げた役を受け継いで、それを自分なりに演じていくという意味では、通じるものがあるような気がします。

映画「ライオン・キング:ムファサ」は、若き日のムファサとタカ(後のスカー)をめぐる物語です。ふたりが固い絆で結ばれていたことに、ファンは驚くのでは?

道口瑞之

右近 オリジナルの「ライオン・キング」ではスカーが敵役ですが、そこに至るまでに、兄弟の間に何があったんだろう?という気持ちになりますよね。「ライオン・キング:ムファサ」では、それが解きほぐされます。スカーの人気がより高まる作品だと思いますよ。

道口 僕は、生まれつきのヴィラン(敵役)はいないと思っているんです。スカーがムファサに対してあれほどの憎しみを抱いたのは、その反対側に、愛や敬意があったからではないかと。そこを掘り下げれば、逆に憎しみが大きく出せると思い、役を作ってきました。それが今回の映画で裏打ちされたような気がして、うれしかったですね。

ミュージカルの『ライオンキング』には、歌舞伎の要素も取り入れられています。

道口 本職の方の前で言うのはお恥ずかしいのですが、アメリカのクリエイティブ・ スタッフから、「そこは歌舞伎の見得をして」と指示された部分があるんですよ。

右近 え、そうなんですか? 歌舞伎の世界では当たり前にやっていることでも、外から見たら「面白いから取り入れよう」というふうになるんですよね。うれしい反面、自分たちはその面白さに気づけていなかったな、と思うことがあります。

道口 僕は『ライオンキング』に限らず、『ノートルダムの鐘』のフロローや『アラジン』のジーニーを演じるときも実は歌舞伎を意識していて。あの空気感とパワー。少しでも近づけたらいいなという気持ちでやっています。

「ライオン・キング」の音楽の魅力は?

道口 ディズニーはメロディー主体の作品が多いけれど、「ライオン・キング」の基本はリズム。つい歌い上げたくなるのですが、アフリカのリズムを意識しながら歌わないと成立しない。絶え間ないリズムが、祖父から父へ、父から自分へ、自分から子へ......と永遠に続いていくことを表現しているんです。

右近 壮大なスケールと、愛やぬくもりを感じられるところでしょうか。どのディズニー作品にも言えることですが、とくに「ライオン・キング」は、曲を聴いただけで、自分の好きなシーンやセリフが一瞬で浮かんでくる。そういう音楽との深いつながりを持った作品が歌舞伎でもできたらいいなと、今回ディズニー作品に参加したことで、より強く思うようになりました。

アニメーションからミュージカル、超実写映画へと姿を変えながら、「ライオン・キング」が今も愛され続けている理由は何でしょうか?

道口 舞台に関していえば、『ライオンキング』にはイマジネーションをかき立てるような演出があって、それがロングランを続けている理由だと思います。すべてを人の力で動かす演出技法や、作品のテーマも含め、今の時代に通用する普遍的な魅力があります。

右近 僕は、古くならないことが歌舞伎の強みだと思っているのですが、「ライオン・キング」もまさにそういう作品だと実感しました。超実写映画というリアルを追求した「ライオン・キング」がある一方で、イマジネーションやマンパワーで魅了する舞台がある。それがお互いに共鳴し合いながら、さらに輪が広がっていくのはステキなことですね。

ディズニーミュージカル『ライオンキング』より
スカ―=道口瑞之、ムファサ=宇龍真吾
撮影=山之上雅信

これから映画「ライオン・キング:ムファサ」や舞台を観る方へ、メッセージをお願いします。

右近 誰も知らなかった物語が明かされることによって、「ライオン・キング」という作品に対する愛が深まると思います。すべてはつながっていることを深く感じてもらえる作品になっているので、ぜひご覧ください。

道口 どちらも観れば、どちらもまた観たくなります。これまで積み重ねてきた年輪とともに、今の「ライオン・キング」を楽しんでください!

超実写映画「ライオン・キング:ムファサ」
全国映画館にて公開中 ©Disney

撮影=阿部章仁