『ゴースト&レディ』ご観劇の声

※「四季の会」会報誌「ラ・アルプ」2024年7月号掲載

  • 東京公演をご観劇の皆様より
  • 各社新聞掲載された劇評
  • 久我真樹さん
    (英国文化研究者)

    四季劇場[秋]2階席から舞台を見た時、英国ドルーリー・レーン王立劇場のバックステージツアーで、幽霊グレイが出現するという席からの眺めが重なりました。公演が始まると、グレイとフローが確かにそこにいました。
    「黒博物館 ゴーストアンドレディ」の一ファンとして、舞台化でグレイの「劇場にいる幽霊」というルーツが際立ち、原作を含めた「新しい物語」とした描き方に感服しました。原作ではフローを中心に語る私が、今はグレイを中心に語っていることが、その証明です。
    見終えた後、もしも『ゴースト&レディ』がグレイのいる英国の王立劇場で上演されたら、彼がどんな顔で観劇するのかと想像しました。そんな未来の実現を願っています。

    「藤田和日郎 黒博物館 館報 ヴィクトリア朝・闇のアーカイヴ」著:藤田和日郎/久我真樹 ©藤田和日郎/講談社)

    釈 由美子さん
    (女優、タレント)

    私がこれまで最も衝撃を受けた『ノートルダムの鐘』のスコット・シュワルツさんが演出されたなんて、おもしろくないわけがありません。息子と一緒に劇場に足を運びましたが、ただただ圧倒されました。いつも我々の想像をはるかに超える驚きや感動を届けてくださり、感服します。
    フローがラストで慟哭(どうこく)する場面や、愛と優しさに包まれたエンディングの演出には痺(しび)れました。それぞれの過去に閉じ込められていた深い情念が混じり合い、うねりとなって優しく溶け合う美しさ、心に紡がれるその絆は、涙が溢(あふ)れるほど抒情(じょじょう)的で胸に迫ります。時代の混乱を乗り越え、死をも厭(いと)わず使命を果たそうとするフローの気迫溢れる覚悟と情熱の気高さに心を動かされ、私も自らの人生を生きる力と勇気をいただきました。
    何度でも堪能したい最高傑作がまたここに生まれたこと、この作品に出会えた喜びを心の底から感じています。
    親子で心を震わせ、感動を共有した時間はかけがえのない宝物です。ママの手をぐっと握りしめながら泣くのを堪えて肩を震わせていた息子の横顔を、私は一生忘れません。

    辻村深月さん
    (小説家)

    フローとグレイの二人を迎えて、劇場が喜んでいるのがわかる。
    たとえば、幕間のひととき。新作を待ちわびていた皆さんが未知のストーリーに思いを馳(は)せて「この後どうなるんだろうね」「待って。知っていても言わないで!」「原作も読んでみたい」と話す声が聞こえてくる。
    終演後、グッズ販売に開演前より長い列があんなにもできるのも、きっと、最後まで物語を見届けたことで、観客の皆さんが心からこの舞台に魅せられ、フローとグレイを大好きになったからなのでしょう。同じ舞台を共有したものとしての幸せ、演劇を見るということの喜びそのものが、その日、劇場にありました。

    ©︎澁谷征司/水鈴社

    中川翔子さん
    (歌手、タレント)

    『ゴースト&レディ』は夢の中にトリップしたような幻想的な光と物語で、音楽にまるで色がついているようにくるくるキラキラ届く生の歌声の素晴らしさ、大傑作のミュージカルに感激しました。
    フローの美しさ! 芯が強く凛とした、だけど困った表情が可愛くて綺麗(きれい)で、一気にファンになってしまいました。あんなにたくさんの歌を感情込めて届けてくださる喉と体力の強さを尊敬しています! 誰かのためにあそこまで献身的に尽くせるフロー、大切な人のために全てを賭けることができるグレイの想い、せつなくも意外なラストの展開と美しさは人生に刻まれる圧巻の世界でした。本当に綺麗だったフロー、あのお顔と喉に生まれたかったです。

  • 歌唱力が支える好舞台 広瀬 登さん(毎日新聞学芸部記者) 毎日新聞(夕刊) 2024年5月15日付

    劇団四季の新作オリジナルミュージカル。藤田和日郎の人気漫画を原作に、「ノートルダムの鐘」を手がけたスコット・シュワルツを演出に招いた。脚本・歌詞は高橋知伽江、作曲・編曲は富貴晴美という近作「バケモノの子」でもおなじみのコンビ。実績豊かな製作陣をそろえた劇団の意気込みが感じられる。6日の初日舞台を実見し、期待は裏切られなかった。
    フローレンス・ナイチンゲール(フロー)が天命に従いクリミア戦争の野戦病院へ赴き、さまざまな困難に立ち向かいながら愛を見つける物語。強い意志を持つ自立した女性であるフローは現代性を帯びているものの筋立ては古典的。が、劇場に住む芝居好きのグレイという名のゴーストを、フローの相棒として対峙(たいじ)させることで奥行きがグンと広がる。演劇が内包するマジックが加わるのだ。客席と劇世界の境界線が消え始め、「この世は舞台」となる。松井るみの装置デザインも今作ならではの魅力に大きく寄与する。
    奇をてらわず、英国の民族音楽などを巧みにとり交ぜた富貴のスコアがしっかりと作品を支える。フローとグレイのデュエット「不思議な絆(きずな)」をはじめメロディー性豊か。自然に登場人物の心へ、こちらの心を重ね合わせられる。未知の土地へと向かうフローと看護師たちの「走る雲を追いかけて」の前進力にも心躍る。フロー役の谷原志音、グレイ役の萩原隆匡はともに、内面のドラマチックなうねりから静かな叙情まで十全に表現。アンサンブルも含め、出演者全員の盤石な歌唱力あってこその好舞台だ。
    すべての幕が下りた時、信じる力、希望を持つ力、そして愛する力の尊さが、客席全体に降り注ぐ。人が生きるよりどころとなる三つの力を、今作は与えてくれる。11月11日まで、JR東日本四季劇場「秋」(東京・竹芝)

    チームの一体感、歌唱の力 内田洋一さん(日本経済新聞編集委員) 日本経済新聞(夕刊) 2024年5月22日付

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