パリ・オリンピック開会式でセリーヌ・ディオンが歌った「愛の讃歌」は、見事な絶唱・激唱・熱唱であった。シャンソンの地盤沈下はなはだしいものがある音楽界の現況では、世界各地にこの曲を初めて聴くという人たちが結構たくさんいたのではないか。ということもじゅうぶんに推測されるので、念のためこの歴史的名曲(今やそう呼んでもおかしくあるまい)の背景についてごく簡単におさらいしておくとしよう。
創唱したのはシャンソン歌手として20世紀最大の存在感を誇るといってもいいエディット・ピアフ(1915~63)、50年1月、パリの音楽堂サル・プレイエルでおこなわれたリサイタルにおいてであった。同年5月、レコーディング。作詞はピアフ自身、作曲はマルグリット・モノー。原題「Hymne à l'amour」(ちなみに〝創唱する〟という用語はフランス語のcréerに基づき、シャンソンを語り論じるとき、しばしば用いられる。だれがその歌をいちばん最初に歌ったのかを意味する。原語、訳語とも他の音楽ジャンルでは使われることがあまりない)。