『バケモノの子』クリエイターに聞く  その3

※記事は「四季の会」会報誌「ラ・アルプ」2022年4月号に掲載されたものです

映画を観たときは、自分が振付をするので「このシーンはどうやるんだろう?」とばかり考えていました。演出の青木(豪)さんは、稽古場で続々と発想される方。時に、思いがけないアイデアが飛んでくることがあるんです。もちろん、イメージや動きは事前に考えているので、その場で即時対応していくことは大変(笑)。ですが、演出家のイメージを形にするのが自分の仕事だと思っています。そして、こうした経験はオリジナルだからこそ。作っていて楽しいです。

踊りは映画にない要素ですが、振付をする上で大事にしているのはいつもと変わらず、俳優自身が役を生きていると感じながら動けること。『カモメに飛ぶことを教えた猫』もその思いで作りました。まず大事にしたい点はドラマ。その結果として振付が存在していると思うんですよね。劇中、渋天街のバケモノたちが蓮(九太)に掃除や料理の仕方を教えて盛り上がるシーンがあります。ちょっとしたリアクション、動きをつけることで、その場所にみんなが集まってくる意味が生まれ、そこが楽しい場所になる。たんに移動するために動いたり、わざと踊りにする必要はなくて、みんなが楽しい!というイメージが共有できればいい。僕はそういうやり方で、俳優たちが楽しんで動ける振付になるのが理想だと考えています。

また、同じ場面に、おばさまトリオが踊るシーンがあるのですが、台本には「洗濯のやり方を教える」とだけ書かれている。そこで伝えたいのは「うまくできなくてもまあいいじゃない」ということなので、それを演じる3人がリラックスしてできる動きを考えたら、"ドリームガールズ"のような形になりました。でも僕一人で作っているのではなくて、俳優のみんなの力を借りて、物語の中の動きになり、俳優にとって意味ある動きになるのが重要。そうなったときの俳優の呼吸、息づかいによって、その物語が本来描いているシーンになるのでしょうし、その空気をお客さまとシェアできるのだと思います。今回の出演候補キャストは同じ役でも個性が違って、同じ振りを踊ってもそれがはっきり表れる。俳優として自分が自信をなくすくらい、みんなのお芝居が面白いです。
『バケモノの子』の稽古をしていると、心を掴まれるところがほうぼうにあるんですよ。生身の人間が演じるから余計そう感じるのか。熊徹と蓮(九太)の師弟の関係だったり、人間の心の闇というテーマだったり、観てくださった方それぞれに、いろいろなことが感じられる作品だと思います。なので、ここを見てくださいとはあえて言いません。でも、思わずうるっとくるところがあるのは確かですね。(談)


  • 萩原 隆匡(はぎわらたかまさ):1999年入団。俳優として『コーラスライン』『キャッツ』『ウェストサイド物語』『ライオンキング』『アラジン』『ロボット・イン・ザ・ガーデン』他、多数のミュージカル作品に出演。『ブラックコメディ』、『劇団四季ソング&ダンス』シリーズなど、ストレートプレイやショウ作品にも出演している。2019年発表のファミリーミュージカル『カモメに飛ぶことを教えた猫』では振付を担当し、活躍の幅をさらに広げた。本作が、2作目の振付作品となる。

取材・文= 宇田夏苗