劇団四季史上、最大規模の新作オリジナルミュージカルとなる『バケモノの子』。
開幕前、創作の最中に行われた、クリエイターの方たちへのインタビューをお届けします。
※記事は「四季の会」会報誌「ラ・アルプ」2021年12月号に掲載されたものです
青木:僕は演出のお話をいただいて嬉しかったです。オリジナルミュージカルの創作は劇団四季さんが掲げている命題でもあるでしょうし、それをやるには原作の力が大きいほうがお客様にアピールしやすい。「バケモノの子」は映画が知られていて、なおかつ強いテーマを持った作品です。それをもとに日本発のミュージカルを創る一端を担えるのは、芝居をやっている人間として、劇団四季の一ファンとして大変ありがたいなと思いました。このタイトルが素敵ですよね。蓮(九太)は「人間とバケモノに育てられた」と言うけれど、演劇や映画を創るって人間の業を引き受けることだと思うんです。どこか自分もバケモノになってないとできないような。そういう意味で、僕もおそらく今まで見てきた演劇や映画を創ってくださったバケモノ級にすごい人たちに育ててもらい、この仕事に携わらせてもらっている感覚があるし、細田守監督もたぶんそうだと思うので、すごくシンパシーを感じています。
富貴:私は小さい頃から劇団四季の舞台を拝見していて、ミュージカルが大好きだったので、自分で(ミュージカルの)作曲をするのが夢でした。『ライオンキング』を観た時の感動は今も覚えていて......ここにいるのが夢のようです。「バケモノの子」の映画は、途中から熊徹と蓮が普通の親子のように見えてきて、姿形の違いや血のつながりは関係ないのだなと。明るく楽しい物語の根底には、ものすごく深いメッセージが込められているなと思いました。
高橋:私は「おおかみこどもの雨と雪」で細田監督のファンになり、「バケモノの子」は公開とほぼ同時に観ていて、映像のスケールの大きさ、アクションの凄さに圧倒されました。それを原作にオリジナルミュージカルを創って長期公演したいと最初にうかがって、劇団四季、攻めてるなーって(笑)。
鎭守:映画を拝見して、私もバケモノの世界と人間界がパラレルに存在している物語を、舞台の上でどうやって展開するかなと思いました。正直、大変だろうなと想像していたんですけれど、実際に創作を始めたらどんどん立体化しているし、私自身、劇団四季オリジナルでストーリーのある作品に関わるのが久しぶりなので、とても楽しいです。
青木:「楽曲検討会」では、実際に俳優の方に楽曲を歌ってもらいながら、歌詞や譜割をこうしたほうがもっと伝わるんじゃないかとか、結構やりとりしましたよね。
鎭守:翻訳ミュージカルの場合はある程度決まった歌詞の内容、すでにあるメロディに、どう日本語を当てていくかの作業になりますが、オリジナルだと何も規制がないので。知伽江さんと富貴さんが書いてくださった歌詞や譜面をここをこう変えましょうかとか、カットしていいですか、ということを重ねていて。さらに俳優からの意見も聞きつつ、初めて観ても一度で内容を取り込める歌詞とそれに見合う音楽、キャッチーで覚えやすいものを目指しています。
富貴:演じられる方たちが目の前で歌ってくださることで、わかることがたくさんあって、そこから細かく直していけるのが、本当に贅沢で素晴らしいなと思います。知伽江さんから最初にいただいた台本のベースになるプロットには、各ナンバー2行くらいの歌詞を入れてくださっていて。それを見て一番初めに書いたのが、映画で、熊徹が発する印象的な台詞「胸の中の剣を握れ」をモチーフにしたナンバーでした。ピアノの前に座って歌詞をすらっと読んだら自然に今のメロディになった。だから曲を生み出せたのは知伽江さんのおかげです。
高橋:いえいえ、私は富貴さんのインスピレーションのボタンを押すような言葉を書いただけで。曲をいただいてから歌詞を乗せていくし、一応の設計図として台本を書き、そこからまた足したり引いたり、創作って創るだけでなく壊すみたいなところもあるんですよ。
青木:本当にそうで、僕も舞台美術の打ち合わせを延々とやっています(笑)。できたと思ってもまたこうしようとなって、やっぱり創りながら壊しているんですよね。
高橋:だから"たのぐるしい"ですよね。楽しくて苦しい。舞台は映像ほど自由自在ではないからこそ、生身の人間がやるからこそ、劇団四季がやるからこその良さがあるはず。そういう魅力が出るようなシーンを盛り込んだつもりです。劇団四季の舞台が好きな方はダンスにも期待していらっしゃるでしょうし、それは映画にはない要素なので私も楽しみながら書きました。振付の萩原(隆匡)さんよろしく、という気持ちでね(笑)。
高橋:脚色するにあたって映画を何回も観返しながら、救いの物語にしたいと強く思いました。そこで蓮と一郎彦の関係性、二人の歩みを丁寧に描きたいなと思って。私の中では「バケモノの子"たち"」なんです。
青木:映画ではバケモノの世界と人間界がシーンによって変わるけれど、知伽江さんの台本では同時に二つの世界が存在するんです。渋谷と渋天街の同期性を演劇的にどうみせるか。演出としてはカバーアルバムを作っている気持ちというのかな。カバー曲を聴いた時にイントロが少し違っただけで、これは違うとなるじゃないですか。でも同じだとつまらないし、似てるんだけどちょっと違っていて、ああこれ、最初に聴いた時のわくわく感と一緒だというふうに仕上げるのが僕の仕事なのかなと。どういうふうにまとめたら新しいカバー曲になるかにずっとこだわっていますが、だいぶ面白い感じになってきました。
高橋:オリジナルの稽古って大変なんですよ。台本も音楽も稽古の最中に変わっていくから。皆さんそれはご存知だと思うのですが、オーディションにはベテランの方から四季レパートリー作品の主役を務めている方たち、若い方たちが意欲的にきてくださって嬉しかったですね。
鎭守:だからやっぱり、みんな新しいものを創りたいっていう気持ちがあるんですよ。知伽江さんがおっしゃった、攻めの姿勢は俳優の方たちも感じているんじゃないでしょうか。青木さんの場合、同じ役でも個性が全然違うキャスティングになっていて、面白いかもしれないと思っています。
青木:この人がこのキャラクターをやったら楽しそうだなと考えながら審査しました。きっと何度観ても楽しめると思います。あと、この企画が発表されてから、まず聞かれるのが「くじらのシーンはどうするんですか?」ということで。それはご期待ください。いろいろ課題はありますが、芝居だとこんなふうになるというのをお見せしたいなと。僕は『恋におちたシェイクスピア』で初めて呼んでいただいた時に、全員がやりたい演劇の理想がしっかりあって、そこに向かって切磋琢磨していて、ああ、ここは劇団なんだなと思ってすごく嬉しかった。今回もどうやって全員が考えている理想のミュージカルが創れるか。人の力とイマジネーションでそれをやりたいと思っています。
富貴:最高のスタッフ、キャストの皆さんが心強く、稽古前からわくわくしています。何より熊徹と蓮を見ていると、自分も大きな愛を持って音楽を創らないと、自分が泣けるぐらいの曲でないと伝わらないなって。それでいてメロディをお客様に口ずさんでもらえるようにと願いを込めて作曲したのがさきほどお話したテーマ曲でもありますね。
高橋:あのテーマ曲には、誰もが思わず口ずさんでしまうような力がありますね。親世代でも子ども世代でも必ず胸に響くものがある作品だと思うので、幕が降りる時にはお客様はほぼ泣いていらっしゃるんじゃないかと。そこに行き着くまで、みんなで一緒に時々つまずいたりしながら、前に進んでいけるのが幸せだし、その結果こそが、お客様に届くだろうなと思っています。
取材・文= 宇田夏苗 撮影=阿部章仁
宇田夏苗(うだかなえ):フリーライター。城西国際大学メディア学部専任講師。映画会社で邦・洋画の宣伝に携わったのち渡米。約8年のNY滞在中にフリーで活動を始め、帰国後はミュージカルを中心としたインタビューのほか、舞台プログラムの編集を手がける。共著に「50歳から楽しむニューヨーク散歩」(小学館)。