照明家(あかりや)人生劇団四季から世界へ
刊行日:2018年11月6日(火)
頁数:ハードカバー・四六判上製単行本/全344ページ
本体価格:2,700円(税別)
出版元:早川書房
毎日新聞2019年1月6日(日曜日)掲載
今週の本棚
まずは舞台を愛することから
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光と影で物語をより深みへと導く舞台照明。著者は、その重要な役割を担う照明家の第一人者として長く活躍してきた。昨年65周年を迎えた劇団四季創立メンバーの一人でもある。自伝や劇場論など4部構成で軌跡をたどる本書は、そのまま戦後の日本演劇史に重なる。「専門書はありましたが、一般の人に読んでもらえる本はなかった。『照明家』という言葉が本屋に並ぶこと自体、画期的だと思います」
手がけた舞台は1500以上。四季の浅利慶太演出作品や蜷川幸雄演出作品、三代目市川猿之助(現・猿翁)のスーパー歌舞伎、オペラ、バレエと幅広い。
舞台にかかわるきっかけは戦後間もないころ、石神井高校在学中にさかのぼる。「2年上の諏訪正(正人)さん(後の毎日新聞「余録」筆者)が中心になって演劇部を作り、強力なリーダーシップで僕らを演劇の道に呼び込んだんです」
本格的に照明を勉強しようと、日本の舞台照明のパイオニア、遠山静雄の門下に。「仕事を始めたころは、劇場の客席の電灯や配電設備をメンテナンスする電気技師として雇われていて、傍らに舞台照明をやるという感じ。照明家に地位が向上したのはだいぶたってからです」
戦争でほとんどの劇場が焼失し、昭和30年代後半(1960年代前半)は、新劇もオペラやバレエも劇場不足が深刻な問題だった。そんななか、浅利に誘われてかかわった日生劇場(東京)の建設への道のりは、興味深いエピソードにあふれる。
「照明をやるためには設備をよくしないといけない。設備をよくするためには劇場をよくしなければいけない。照明からどんどん広がっていったんです」
こけら落としとなった、ベルリン・ドイツ・オペラの前例のない引っ越し公演。その打ち合わせのため初めて渡欧した。「音楽と演劇の融合にまず魂を奪われました。そのうえに、彼らの劇場の設備、考え方に大きな影響を受けました」
日生劇場での経験と課題が、その後の新国立劇場へとつながっていく。舞台芸術への尽きることない愛情が、行間からにじみ出る。「芝居を愛する、オペラを愛する。まずはそこから出発してほしい」。舞台芸術、劇場にかかわる若者へのメッセージである。
文・濱田元子
写真・宮本明登