グローバルプロデューサー コリン・イングラム氏 インタビュー

※記事は「四季の会」会報誌「ラ・アルプ」2025年4月号に掲載されたものです

Photo by 阿部章仁

映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー(以下BTTF)」を初めて観たのは16歳の頃。僕には、主人公のマーティ・マクフライが世界で一番かっこいい人に見えました。クールな見た目もそうだし、存在自体がね。それに彼が住んでいたカリフォルニアという場所も、僕が暮らすスコットランドよりも太陽が照っていてワクワクするような、素晴らしい所だと思いました。
でも何よりも惹かれたのは、やはりストーリー。「もし違う時代に行けたら?」という誰もが考える"たられば"を描いていて、行った先で若い頃の両親に出会ってしまうという。マーティが訪れる50年代は、疑う心を持たないピュアな人たちが社会的な規則に従って生きている一方、ボールルームで開催されるダンスパーティを楽しむなど、ある意味ロマンチックかつグラマラスな時代だった。登場する車や服装、ダンスといったすべてがすごく味わい深く、そこから物質的に豊かになっていく80年代への変遷にも興味を抱きました。

プロデューサーとして作品を探す際、注目するのは商業的に大衆性があるかどうか。やはり世界的に通用するものであってほしい。その点、ミュージカル『BTTF』はすでに300万人以上を動員しています。
その実績があるから、他の国に持っていけると判断できるんです。今ちょうど10月開幕予定のオーストラリア公演に向けてオーディションを進めていて、同時にドイツ公演のキャスト選考についてのミーティングもしている。夏にはロイヤル・カリビアン・クルーズラインでの上演も控えていますし、大忙しです。でもこうしていろいろな国で上演できるのは非常に喜ばしいことで、プロデューサーとして本当に充実した日々を送っています。
そして、それらの国に先駆けて4月6日には日本で公演がスタート。初めての翻訳版(英語以外での上演)ということで、クリエイティブ・スタッフ一同、緊張すると同時に大いに興奮しています。

私は以前ディズニーで働いていたことがあり、ミュージカル部門にも関わっていたんです。浅利慶太さんのお話もよく伺っており、行く先々のビジネスミーティングで劇団四季の名が上がることもしばしば。そんな四季さんから『BTTF』の件でご連絡をいただいた時は嬉しい驚きでした。
もともと映画が日本で大ヒットしていたのは知っていましたし、ミュージカル作品において日本はアメリカやイギリスに並ぶ大手マーケットでもある。また、『BTTF』は老若男女が楽しめる家族向けショーでありながら、コメディー色が強く、これまでの四季さんの作品とも異なるところがあるので、うまくラインアップにフィットするなと。こういろいろと考えた時、自ずと日本公演というプランがしっくりきたんです。
マンチェスターでの試演に始まり、ロンドンのウェストエンド、NYのブロードウェイ、そして北米ツアーに次ぐ、5度目の立ち上げになります。これまでのプロダクションから得た学びから、さまざまな補足・修正を加えてきたので、日本公演はある意味ここまでで最高のプロダクションになると考えています。

昨年1月に立ち会ったオーディションは3日間で200人を見るという、すごいものでした。参加された俳優の皆さんはいずれも歌唱やダンスなどの技術に優れていて、非常に感心させられました。特にドク・ブラウン役はピッタリな方が見つかったと思っています。
今回キャスティングされたのは力のある方々ばかりなので、あとはコメディーや、男性的・女性的な魅力を演出のジョン・ランドに引き出してもらうだけ。彼はそういうのを俳優から引き出すのがうまいんですよ。稽古場ではさまざまな役を自分で演じて見せるので俳優の皆さんは楽しんでいるんじゃないかな(笑)。
音楽スーパーバイザーのニック・フィンロウも声というものを知り尽くしている人です。一人ひとりどう歌ったらいいか、しっかりと指導してくれることでしょう。ボーカルアレンジも彼が担っているので、歌うのが難しかったら彼のせいということで(笑)。あと振付のクリス・ベイリーは力強く、筋肉質な振りをつけるタイプなので四季の俳優にとっては新しい経験になるんじゃないかな。
それらの動きを覚えるプロセスが終わったら、芝居、歌、ダンスのすべてを通していかに物語が伝わるようにしていくかという段階に移っていく。私たちとしては、前にやったことをただ再現するために日本に来ているのではありません。今、稽古場にいらっしゃる俳優さんとともに、新たに舞台を仕立てていく思いでやっています。

初めて四季さんから接触があったのがコロナ禍真っ只中の2022年。足掛け4年、日本公演のことを考えてきました。
今日まで四季の皆さんは組織としてとてもご尽力くださり、稽古場や劇場では然るべき作業が行われている。私たち海外からのスタッフとも望む以上のコラボレーションができており、本当に素晴らしい舞台になるだろうと確信しています。
先程も言ったように、今観られる最高の『BTTF』を日本のお客様にお届けできるはず。実際にご覧いただいたら「早くもう一度観たい!」と思える楽しい作品なので、ぜひご期待ください。

取材・文=兵藤あおみ

兵藤あおみ(ひょうどうあおみ)
駒澤短期大学英文科を卒業後、映像分野、飲食業界を経て、2005年7月に演劇情報誌「シアターガイド」編集部に入社。2016年4月末に退社するまで、主に海外の演劇情報の収集・配信に従事していた。現在はフリーの編集者・ライターとして活動。コロナ禍前は定期的にNYを訪れ、ブロードウェイの新作をチェックするのをライフワークとしていた。