『思い出を売る男』

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はじめに Introduction

四季の財産ともいえる名作、
加藤道夫の「現代のおとぎ話」。

サクソフォンの音色とともによみがえる、懐かしさと物悲しさ、
そして優しさにあふれた舞台『思い出を売る男』は、名作「なよたけ」などの戯曲を世に残した劇作家・加藤道夫の作品です。
劇場そのものがまるで一種のタイムマシンのような戦後の“焼け跡の風景”をよみがえらせます。

この作品の初演は、劇団四季創立40周年記念の1992年。
「焦土の中で美しい音と歌を見いだした童話風のスケッチ」「想像力に希望を託した原作の忠実な再現」と高く評価されました。
そして10年後の2003年、劇団四季の創立50周年の記念すべき年に上演されるや連日満席の状態が続く評判となりました。

耳に残る美しい音楽は、浅利慶太や日下武史など劇団四季創立メンバーと慶応で同窓の林光。
彼にとっても原作者の加藤道夫は恩師でした。
宝石のような光を放つ加藤道夫の詩的世界、恩師に寄せる四季という劇団の熱い思いが、観る人を郷愁の異次元へ誘い込みます。

ストーリー Story

「思い出を売ります。
美しい音楽によみがえる幸福な夢。
君よ、思い出に生き給え。
思い出は狩の角笛――」

終戦間もない東京の薄暗い裏街。
一人の男が古ぼけたサクソフォンを吹きながら「思い出」を売っていました。

彼の奏でる音楽に誘われて様々な人がやってきます。
まだ思い出を持ったことのない無邪気で幼い花売娘、したたかな広告屋、そして重く暗い影をひきずる街の女。
女は男が吹くメロディーに恋人との幸福な思い出をよみがえらせます。

故郷に愛しい少女を残してきたG.I.の青年は、「金髪のジェニー」のメロディーに恋人の面影を追うのでした。

陽気な乞食は明るく希望に満ちた音楽をリクエストし、男は「自由を我等に」を奏でます。
乞食は男に、自分ほど幸福な人間はいないと言うのでした。